『誰も知らない』?

何週か前の土曜日に、久しぶりに近所の映画館へ行きました。
松原団地駅のすぐそばにその『松原シネマ』はあるのですが、一時代前の映画館をしのばせるような、古くて、さびれていて、館内が安っぽい「小屋」風な感じがとても好きな映画館です。家から自転車で通えることと、たいていほどほどにすいているのが、ぼくにはこれまた良くて、行くたびに、でも、つぶれないでほしいな〜という思いのジレンマに陥ります。映画館でもバーやカフェでも、こういうところ、少なくなりましたよね。


この日も、すいているにも関わらず早めに映画館に着いてしまい、やることもなかったので、廊下のベンチにすわって、ポップコーンを指でつまみながら、矢作俊彦の新作『ロング・グッドバイ』を読んで、上映までの待ち時間をつぶしました。で、肝心の上映作品は、『誰も知らない』。誰も知らないどころか、主役の柳楽優弥くんがカンヌで史上最年少の主演男優賞を取り、話題となった是枝裕和監督のあの作品。
これがとんでもない傑作だったので、誰かに言いたくて言いたくて、仕事をちょっと脇に置き、書いてます。
是枝さんはしばらく前の「朝日」に『華氏911』について書いていて、これがなかなかによい記事だったので、映画のほうも見たいと思っていたところ、ぼくにとって願ったりの条件で、その思いがかなったというわけです。
一言でいうと「気高い!」映画。深く感動しましたが、今流行りの安易な演出過剰の「お涙頂戴」映画ではないのに、静かに泣ける、でも不思議な美しさと開放感のある「これこそが映画だ」とつぶやきたくなる、伊藤さん風に言うとまさに「肚に落ちる」映画でした。
「気高い!」という評は、ぼくの「見るべし!」という一言で、翌日「松原シネマ」へ見に走った家内の評言であります。こんな映画をせっかちなこの現代の日本経済社会で作られた(作ることができた)こと自体が感動的な出来事だと思います。入場料からみて高いか安いか(得か損か)という評価の仕方がありますが、そんな交換的評価を無効にする、まさに「贈与(贈り物として)」の映画です。


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