『ららら科学の子』読後レポート

 矢作俊彦はとても好きな作家です。ファンとしては晩稲ですが、2、3年前に『ららら科学の子』を読んで、すっぽりと魅了されました。いつかこのブログで取り上げたいと思っていたところ、アリ研メンバーのひとりから「レポート」が届きましたので、自分は少しサボリ、取り合えずここに紹介させていただきます。ぼくも「庵頓亭主人」こと小川さんに、ほぼ同感ですし…。
 矢作氏のマイク・ハマー(濱)ものは好きで原作の前に映画を見ていますが、『ららら科学の子』も映画化が決まったようですね。たのしみです。キャスティングが“すべて”を決しそうだけど…。


ららら科學の子』読後レポート

ららら科學の子

[解題]
著者:矢作俊彦、単行本出版書肆:文芸春秋社、発行日:2003年9月30日、定価:1,800円(※2006年10月 文庫化 700円)
構成:全47章、475頁、初出:「文学界」1997年6月号—2001年11月号
その他:第17回 三島由紀夫賞受賞
[主な登場人物]
*彼(主人公) 
*志垣(主人公の学生時代の友人/作中では在ホノルル) 
*妹(主人公の妹) 
*瀬島(志垣が紹介の渋谷のホテルの支配人)
*傑(ジェイ/ヴェトナム系アメリカ人 志垣の使用人)
*少女(主人公が渋谷で知り合った女子高生)
*礼子(ジェイ関連・紹介の若い女性)
*妻(主人公の中国人妻)
*義父(主人公の中国人義父/上海出身の知識人)
[あらすじ/ストーリー]
1968年12月、主人公は大学闘争に関連した警察官殺傷事件に関与して追われたため日本を密出国し中国に渡る。
その後、文化大革命の動乱の中、中国の辺境の農村にまで流れ着き何とかそこで生活の根を下ろし、結婚までした主人公は、妻が都市へ出奔したのを機に、約30年ぶりに密入国のカタチで日本/東京に舞い戻ってくる。
学生時代の友人・志垣の伝手/援助で東京(渋谷)にひとまず落ち着いた主人公は、その30年の空白を埋めるかのように、嘗ての自宅辺りを彷徨い、生き別れとなった妹の所在を追い求め、終にその在り処を突き止める。 
が、結局、妹との直接の再会を果たすことも無く、出奔した妻を探し求めて再度中国へ飛び立つ。
[切れ切れの感想]
(1)歴史的事実・時代背景を踏まえ、動乱の1960年代後半から経済繁栄・バブル後の90年代末の日本と中国を、時間的・空間的に目まぐるしく行き来する全体のストーリー構想・着眼点は極めて秀逸と思います。
(2)陳腐にもなり勝ちなストーリーを、ミステリー・ハードボイルド・劇画風? に仕立て、息をもつがせず読者を引き込んでいく語り口・筆力は、かなり手だれたものとも思います。
(3)著者/筆者と同じ団塊の世代を主人公とし、その心情・感性に焦点を合わせ、なお且つ現在の日本の諸風俗を浮き立たせることにより、かなり上質なエンターテイメントに仕上がっていると思います。
(4)但し、タイトルが暗示する“手塚治虫/鉄腕アトム”の世界と、本書が描く思考・感性・情念の世界との関係が今ひとつ良く結びつかず、いささかの戸惑い・肩透かしを感じたことも事実です。
[極私的な感想]
教育大駒場高校出身の著者は、渋谷・目黒・世田谷辺りを、具体的な地名をもとに物語の背景として丹念に描いていますが、1979-83年 世田谷区若林2丁目にあるT社社宅に生活した者として、その周辺の太子堂、淡島通り、茶沢通り、若林陸橋などの地名が出てくるだけで、往時の様々な想い出が去来してもう眼も心もうるうるです、、、、
また、E.ケストラー『点子ちゃんとアントン』、K.ヴォネガットJr.『猫のゆりかご』などを初めとする様々な小道具の扱いも、作者のこだわりが感じられて好もしく思います、、、、
 庵頓亭 主人

 みなさんに、お薦めします。とくに50代前後の男性、必読でっせ!


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