▲『クラッシュ』のプログラム
このところ映画を見に行く時間がとれず、フラストレーションがたまっています。せめて、このブログで映画のことを書いて、ちょっとだけ、欲求不満を発散してみよう。
作品は『クラッシュ』。公開から少し間があいてしまったけど、そろそろヴィデオ(DVD)にもなるはずの頃だから、まあ、お許しを(クラッシュ[amazon])。
4月のある日、毎日の仕事の忙しさに追われていたとき、事務所に向かう通勤電車のなかでふと思い立ち、いつもの乗換え駅で降りずにそのまま日比谷へ。なんでもいいから映画を見ようと、あてもなく、いくつかの劇場の方へ歩いていったら、ちょうどこれから上映がはじまる作品があり、その劇場に飛びこみました。それが『クラッシュ』でした。場所とタイミングが、まさにクラッシュ(衝突)したわけです。
余談ですが、「締めきり」が迫っていて忙しいときほど、映画が見たくなる! 都心で仕事していると、映画館が格好の逃避場所になるわけで。
昔、手塚治虫さんにインタヴューしたとき、雑談のなかで、同じことを言っていたのを思い出します。生前の手塚さんの忙しさは半端ではなかったわけですが、仕事がいまひとつ煮詰まらないと、何日も徹夜で待っている「手塚番」の編集者の目を盗んで、映画館に姿をくらますことがよくあったらしい。…待つ方の同業者としては、あまり笑えない話だけど。
『クラッシュ』はご存知のとおり第78回アカデミー賞の作品賞、脚本賞、編集賞をとった映画。監督は、クリント・イーストウッドの『ミリオンダラー・ベイビー』で脚本を担当したポール・ハギス(『クラッシュ』の脚本も)。
これは★★★★☆(四つ星半、五つ星は滅多に付けないので…)で推奨!したい、とってもいい映画でした。
アカデミー賞を受賞したからいうわけではないけど(「賞」ほどあてにならない「ショー」はない)、じっさい、脚本と編集が(キャスティングも)非常によくできた作品で、内容も、まさにギスギスした現代の社会(舞台はアメリカ、ロサンジェルス。むろん9.11後)が抱える問題を摘出した重たい映画だけど、最後はおしつけでない「希望」が静かにわきあがるような…(ヴィム・ヴェンダースの『ランド・オブ・プレンティ』を想起する人もいるかもしれない)。
妙な言い方かもしれないけど、ポスト・リベラリズムの映画の出現といっていいかもしれない。
これから見たいと思っている人には、あまり立ち入った内容や感想はしゃべらない主義なので(しかも、いいと思ったものしか触れない)、今日は「見るべし!」としかいいませんが、『クラッシュ』は、解決困難な問題をかかえながら生きていかざるをえない人間たちの心の葛藤や、矛盾だらけの社会の複雑さを、単純な「答え」に誘導することなく複雑なままに、でもけっして難解にせずに、映画ならではの表現で描いた傑作です!
天使のエピソードもすごくいいし、ロスの街に雪を降らせるなんて、これぞ映画だ! と胸のうちで叫びたくなる、静かな感動がラストに待っています。あっ、しゃべってる(^_^;)。
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