最近見た映画、読んだ本

このところ時間的な余裕がなかなか作れず、本ブログをさぼりぎみです。でも、いい本や映画がなかったからというわけではありません。むしろ反対です。「ちゃんと」腰を入れて書きたくなるものが多く、書かない前から書きたくなる題材がたまって困ったな〜といった次第。したがって、きょうはここ1か月ばかりのあいだに読んだもの観たもので、比較的新しい作品のなかから推奨する価値があると思えるものを、コメントは簡単にしてあげておきます。それだけでもしておかないと、忘れちゃうし…


まず映画。

●クリント・イーストウッドの『父親たちの星条旗』

父親たちの星条旗

硫黄島2部作のうちの「アメリカ側から見た視点」で描かれた方の作品ですが、この8日から「日本側の視点」の『硫黄島からの手紙』が公開されます。おそらくは両作を見ることで、感想の抱き方にもより多様性が出てくることでしょうが、この1作だけでも文句なく素晴らしい! 

『許
されざる者』から近年の『ミスティック・リバー』『ミリオンダラー・ベイビー』そして本作と、C・イーストウッドは1作ごとに題材を変えながらも、真の
「正義」とは何かを、一人ひとりの生きている人間としての尊厳に照合することで、ますます鮮烈に問い掛けているように思います。この80歳を超えた映画監
督は、一瞬たりとも「老成」などという言葉に安住することなく、映画というもののもつ「いつも新しい」魅力と力を確実にプロデュースしうる、真に偉大な映
画作家といっていいのではないでしょうか。

●ジム・ジャームッシュの『ブロークン・フラワーズ』

ブロークンフラワーズ

彼も新作となれば、どうしても見たくなる大好きな映画作家のひとりです。ひとことで何と書いたらいいのか思いあぐねてしまいますが、やはり、「帰路を失った旅人(ストレンジャー)」という主題の連続線にある映画としてぼくはこれを見ました。

『ス
トレンジャー・ザン・パラダイス』の登場人物がオヤジになった現在の姿として見ることができると思いますし、なんだか身につまされるといったら野暮になる
か!? ジョニー・デップ主演の『デッドマン』(これはスゴイ映画だと思うんだけど)をもう一度見直してみたい衝動にもかられます。

●ロン・ハワードの『ダ・ヴィンチ・コード』

ダ・ヴィンチ・コード デラックス・コレクターズ・エディション


ン・ブラウンの原作が面白かっただけに、こっちの映画のほうはどうも…。ストーリーの辻褄合わせのほうに引っ張られて、映画的魅力に乏しい感じを受けまし
た。かといって、あれでは原作を読んでいない人には謎解きの面でもわかりづらいにちがいなく、あらゆる点で、ちょっと中途半端だったかな。

結末までの展開に急ぎすぎている観があり、かえって見ていて退屈でした。ロン・ハワード監督の次回作に期待しましょう。多分、本人も満足していないはず。

本のほうは、もっと略式で。

●岩井克人『資本主義から市民主義へ』

資本主義から市民主義へ

 これはすばらしい。大推薦。「言語・貨幣・法」の自己循環論法がパラドックスから「真理」へと転換するスリル、そして希望。経済学は苦手ですが、人間論(認識論=存在論)として読んで、一種革命的な知見にあふれています。アリ研の必読書にあげたいくらい。

●新宮晋『風の旅人 ウインド・キャラバン』

画家のはいじまさんからお借りした本ですが、ひとりのアーティストが自然と人とのコラボレーションによってプランを実現していくプロセスが日記風
に綴られていて、まさに風のような気まぐれ・偶然性が未知の秩序とつながっていく運動としてかたちをなしていくさまが、やはり風のようなさわやかな感動を
呼びます。いい本だと思います。

●荻原規子『風神秘抄』

風神秘抄

歴史ファンタジーとして、傑作だと思います。

それは、平家vs源氏にまつわる歴史物語を踏まえているというだけでなく、また、たんに思いつきだけで描かれた「空想」でもなく、しっかりとした「夢のリアリティ」に支えられているため、読者はこのファンタジーを読むことで、もうひとつの世界を体験することができます。

事前の情報やまったくの先入見なしに本屋で見つけて読みましたが、宝箱のようなひとりの「女流作家」を発見した思いです。「守り人シリーズ」の上橋奈穂子がそうであったように、あるいはそれ以上に、「勾玉三部作」など彼女の他の作品を読むのがたのしみでしかたありません。

●巖谷國士+上野紀子+中江嘉男『扉の国のチコ』

扉の国のチコ


らためて絵本というもの良さ、その親密さと不思議の魅力に引き込まれる一冊です。献辞に「瀧口修造へ」とあるように、詩人・瀧口修造やマルセル・デュシャ
ン、シュルレアリスムのことをまったく知らない人には取っ付きづらいととられる向きもあるかもしれませんが、けっしてそんなことはありません。

むしろ、不思議への扉としての、また、扉の不思議としての、こども・大人を問わず、未知のなつかしさと出会うことのできる幸福の絵本ということができるでしょう。

●四方田犬彦『ラブレーの子供たち』

ラブレーの子供たち

書くこと・読むこと、そして料理すること・食べることが、知識と実践のなかで対話し・混じり合ったゼイタクな一書です。大著ではありませんが、休日にでもコタツにはいりながら、ゆったりとした時間のなかで読みたい本です(じっさい、そうしました)。


界の芸術家や文豪たちが自分で手がけた料理も紹介されており、簡単には実行できそうもない料理が多いけど、ぼくにもただちにできそうな一品、月島風の
「ジャガイモのソース煮込み」というのをつくってみました。自分のこども時代をなつかしめさせる風味で、家人たちにもけっこう受けていました。

 

●斎藤環『生き延びるためのラカン』●内田樹『疲れすぎて眠れぬ夜のために』
たまたま、同時並行して読みました。一緒くたに論じるのはどうかという人がいるかもしれませんが、ぼくにとっては、思考の「凝り」を思考によってときほぐすという点で共通性を感じます。

「太田胃散、いいークスリです」というCMコピーを思い出しました。そう2冊とも「読むクスリ」として、とてもよく効く本です。もちろん、読む人の症状にもよりますけど、ね。


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