馬喰町ART+EATでお茶を

馬喰町Art+Eat

東京というメガ・ポリスのとある一角に、ひっそりとではあるが、アート・ギャラリーとダイナーを兼ねた、ひとつの不思議な場が開かれた。10月19日にオープンしたばかりの「馬喰町ART+EAT」というのが、その場=空間の名前である。
この、アートと「食」スペースの概要・案内はHPを見ていただくとして、オープン後初のイベントとして「割れ茶会」なるものが開かれたので、女の友人ひとりを誘って行ってみた。「サハラでお茶を」(スティング)ならぬ、「馬喰町でお茶を」のノリで。


 ……と、ヨソイキ風に書き出してはみたけど、この「馬喰町ART+EAT」は、雑誌企画・制作などの仕事仲間でもある畏友(武眞理子さん)が長年暖めていた夢をカタチにしたもの。私もその実現に影ながら声援をおくっていたひとりなので、じつは、正直いって、「馬喰町ART+EAT」のことは客観的な初感(所感)としては書きづらい面がある。「準備」に大童のときに様子見に行ったし、お披露目会やオープニング・パーティにも顔を出させてもらった。
 だからというか(おかしな言い訳だけど)、ちょっと妙な紹介/レヴューになることお許しいただきたい。
 
 この「割れ茶会」(「侘び茶」をもじった呼び方で正式には、配島庸二・茶会「予兆そして破壊と再生」)なるものも、どんなものになるか事前にかなり予測がついていた部分は多い。……でも、しかし、なんです、これが!
 頭のなかにできているイメージを超える物や事と出会ったとき、人は動揺(あるいは逆に沈静)するものですよね。
 かつて吉本ばななの何かの本(『アムリタ』だったかな)で、「現実」の海を目の前にしたとき、その海はいつも想像上の海よりも何割かは豊かである、というような一節を読み、そうそうそれが感動するってことの正体だと大いに共感を覚えたことがある。
 これがなんともオーバーな喩えであることはわかっているけど(やはり昔誰かが言った「プリンの味は食べてみなければわからない」程度にしておいたほうがいいかもしれないけど?)、階段を上り(エレベーターはあるけど、二階までこの階段を上るという感覚がいい)「割れ茶会」のセッティングされた会場に足を踏み入れたとたん、その空間になにやら不思議な、予想を吹き払う海風のような「気」を感じたのは事実だ。白い壁に投影されたモノクロ映像の光と影の効果か、唐突に「冷たい水のなかの小さな太陽」という、エリュアールの詩句が思い起こされたりもした。

配島庸二

 まあ、そう気取って言わずも、うす瞑くヒンヤリとした感じだけど、落ち着いた温もりがありホッとできるとでもいうか…。「茶会」だから静謐感があるのは当たり前にしても、壁を流れる冷たい水のような映像や、現代美術家「でもある」配島(配の字は正しくは草冠が付く)庸二さんの作品「クローンド・ビーナス」の宙づりになった方形の障子のような一片が幽かな結界をきり、その向こうに設置された茶道具類と木の椅子、そして炭(火)と湯(水)が茶人を待つ佇まいが、すでにして見事なアート/環境を構成している。ほのかに上品な香のかおりも漂っている。ほとんどこれは現代日本の都市空間の片隅にできた「湖底のサロン」(ランボー)である。
 いま言ったように、だからこれは想像するより、というか想像力を発揮しつつ五感全てで「体験」してもらうのがいちばんなのだが、取りあえずここでは、この茶席においてもてなされたアイテムの列挙だけをしておこう。
 1/床:絵画「クローンド・ビーナスの押し花」配島庸二作 2/花:季のもの 3/花入れ:「茶碗のオブジェ」里中英人作 4/茶碗=1小野哲平作、金継ぎによる再生 5/茶碗=2水谷渉作 6/茶器=メキシコの薬壺 7/水差し=時代塩壺「亀卜」金継ぎによる再生 8/卓:井藤昌志作 9/炭:リンゴの枝、建築廃材の再生 10/菓子器=小野哲平作銅鑼鉢「わだつみの浦島の夢み」金継ぎによる再生 11/茶「泉の昔」 12/菓子:饅頭「温石」/山下敦子調整 以上

馬喰町Art+Eat馬喰町Art+Eat

 私に茶道のわきまえ・作法といったものの持ち合わせはまったくないし、いわゆる茶器・工芸品などへの審美眼も欠落あるいは偏向しているが、そのこととは別に一言だけ触れておくと、茶の味とからまる、山下敦子さんのお饅頭の気品のある美味しさ(これぞ絶品!)に私の舌は感嘆した。しかも、オープニング記念ということで、茶代は「無料」という。このことにかえって恐縮する気持ちが身をもたげはした。しかし、お金を払う払わないにかかわらず、やはり気品ある客人たちを含めたこの場の空間全体として、等価な売買ができない(お金では払えない=祓えない)もの、つまり目には見えない一種のスピリチュアルな「価値」が流動し、その場がお金=黄金ならぬなにかに「変容」したことはたしかだろう。その意味で、この茶席を日本風の「錬金術工房」に見立てると語られた配島さんのウィットには大いに共感できる。
 この「もてなし」=贈与の場を錬金術師(化学者)として、あるいは一個のメディウムとして仕切られた配島さん、そして席主/武さんにお礼と、改めてお祝いを申し上げておきたい。


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