ねー、うし、とら、う・・・

── 猫はなぜネズミを追いかけるのか
絵本/甲骨もじで あそぶ『ちゅうごくの十二支の ものがたり』

甲骨もじで あそぶ
ちゅうごくの 十二支の ものがたり

[甲骨もじ]おうよう かりょう(欧陽可亮)
[お話]せき とみこ(関 登美子)
[構成]みかみ まさこ
[発行]JULA出版局
[定価]本体1200円+税

 今年はなに年? と、突然聞かれて、えーっと、と口ごもりながら、指を出して、ねー、うし、とら、う、そうだ卯、つまり、うさぎ年。それも、年が明けたばかりのときはまだ覚えているが、4月、5月・・・と月日が経つにつれて、こんな会話が聞かれるようになる。

 その年に生まれた人間にも、例えば私なら羊の年に生まれたので、羊のような温和な性格の持ち主、といったことまで割り振られてしまっている。これはどうしたことか。なぜ年の循環を動物で、しかも12匹の動物で表すのか、ということには、ふつうだれもあまり注意を払ってはいない。年ばかりではない、刻々と移る時間も同じように12匹の動物によって運ばれている。それはなぜか? そしていつ頃からそうなったのか? いちど気にしはじめると、それこそ漫才の文句ではないが「眠れなくなっちゃうんです」なのだ。

 そんな年の始め、暦と動物の謎に答えてくれる、すばらしい絵本を手に入れた。絵本といっても、ふつうの絵で読むお話の本、というのとはいささか違っていて、一見すると、筆で書かれた、なにか絵ともつかない、かといって文字というにはどこか絵のような、記号のようなものが、あふれていて、えっ、これが絵本?

 それもそのはず、この記号こそは中国三千年以上も昔の、文字の原点ともいえる、甲骨文字で描かれたお話の絵本なのだ。

 なぜこんな難しい文字を? と、おもうのだが、そんな事情をこの本の著者は、その最初のページで、こんなふうに語っている。

わたしが こどもだったころ、
とうさんは、わたしを ひざのうえで あそばせて、
3000ねんいじょうも むかしの ちゅうごくの えもじ、
甲骨もじを サラサラと かきながら、
いろんな おはなしを きかせてくれました。
たとえば、
としと どうぶつたちの おはなし。
こんなふうに・・・ね。

 この “とうさん” とは、欧陽可亮(おうよう かりょう/1918〜1992)という甲骨文字をよくする書家で、なんと唐の欧陽詢(557~641)の44代目の直系、という。欧陽詢の書は我が国でも、欧法とか顔法とかいわれて、王羲之とともに、長い間書道のお手本となってきたものだ。

 これから紹介しようとする絵本は、この十二支の由来を、欧陽可亮の書き残した甲骨文字の中から選んで、絵本の形に構成した、3千年前の中国の神話を綴った楽しい絵本だ。

むかし むかし にんげんは、
としを かぞえるのが むずかしくて、くろうしていたんだ。

 という言葉で始まる “とうさん” の話を要約すると、年は、人間たちの上を、何の区切りもなく、のっぺらぽうに過ぎていくばかりで、皆困っていた。そこで神様はまわりの動物たちに競争させて、神様の前に到着した順に名前を付けることになった。そのころ猫とネズミは仲良しだった。初めに大きな川をわたるために困っていると、優しい牛が、背中に乗せてくれるのだが、なんとしても一番乗りがしたいネズミは、猫を騙して川に突き落としてしまう。ぶじにわたり着いたとたんにネズミは、ウシの頭から、ひょいと着地して、そのまま駈けて一着に。優しいウシは2着に、ほかの動物たちは我こそは、と、みんな一生懸命走って、3番がトラ4番が・・・というようにして、十二支が決まったという訳だ。えっネコがどうなったかって?突き落とされて溺れそうになって、それでもやっと神様の前に着いたときは十二支レースは既に終わってしまっていた。このときの動物のレースの実況は、絵本の楽しいお話に任せるとして、

「ねずみを おいかける きもち、わかるよ。ねこちゃん!」

と絵本は結んでいる。

左馬の鏡文字
『甲骨もじで あそぶ ちゅうごくの 十二支の ものがたり』より

 そして、

おはなしが おわると とうさんは、
ちいさい わたしの てを とって
いつも いつも いいました。
さあ、こんどは とうさんと 
えを かいて あそぼうか・・・ってね。

 そういいながら、次から次へとお話に出てくるものたちの絵=甲骨文字を描いて、あるいは書いてくれたというのだが、とうさんの膝のなんともいえぬ暖かさが伝わってくるようだ。

 ここに出てくる甲骨文字は、ものの絵のすぐ隣にある文字だが、現在使われている漢字は、さらに文字としての進化を遂げていて、ちょっとみたところでは、どのように絵につながっているのか、必ずしもはっきりとはしていない。次回は文字の起源について書いてみたい。


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