高野文子の『ドミトリーともきんす』(中央公論新社)。あれこれ忙しいし、書くのをちょっと迷ったけど、、、何年ぶりだろう、寡作な彼女の新刊となれば、そして、やはり「いいな〜!」となれば、紹介しないわけにいかない。といって、どう紹介すればよいか。
まんがによる自然科学の本の解説本であれば他にも優れたものがありそうだが、これは高野文子でしかありえない、ユニークとしかいいようのない、知的で繊細で、寒い日にココアのたてる湯気のようにほのかにあたたかく、身近でありながらちょっと不思議な、これ自体がひとつの詩であるような、科学者とその言葉を題材とした本であるとでもいっておくしかないのだが、舞台の設定や、科学者や科学書を選び、そこから「言葉」を引用するセンスにとてもすぐれた編集者的な面を発見し共感を新たにする思いだが、なによりもやはり、本人が「あとがき」で「静かな絵が描け」たといっている、無駄を洗い落とした描き手の感情を込めない「線」(私はどうしても初期の手塚治虫を想起してしまう)と、絵の「運動」といったほうがよいようなその線の動き、またカットの割り方が、すばらしい。。。じつは、この「静かな」という言い方に、私はひそかに、しかし最も感動してしまったわけなのだが (^_^)*。
そして、この本に登場する4人の科学者の顔ぶれが、なんともいい! 朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹、そして最後にあのジョージ・ガモフが客人としてこのドミトリーにやってくる!
書きたいことは他にもあるが、、、いろいろ考える前に、なにより、これは愛さずにはいられない本である。紹介といっても親しい人にだけ、そっと教えたくなるような。。。一昨日から鞄に入れて持ち歩き、ノーベル物理学賞受賞のニュースと、昨夜の月蝕を経て、今朝の通勤電車のなかで読み終えた。写真はそのときにiPhoneで、北千住の駅近く。もう一点は、昨夜、西新井駅前で月蝕のはじまった夜空を見上げる人々。
科学とまんがと月蝕と
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