ジャ・ジャンクー監督『罪の手ざわり』を渋谷ル・シネマ1で見て、誰が悪いと楽観的に名指しなどできない、現代という、ますます加速する経済(お金)優先(とでもいっておくしかない)社会による人心の荒廃と人の尊厳に対する蹂躙から、暴力と死によっておのれをまもろうとせざるをえなかった「普通」の男と女のこれは物語であり、ある意味『長江哀歌』のその先をいっているともいえる掛値なしの傑作だが、しかし、銃弾のような、鋭利なナイフのようなこの「危ない」映画について、見てすぐにこれ以上のことを語る覚悟が私にはまだできていない、が、かといって何も語らないですますにはやはり重過ぎる、ということで、キャメラが、役者が、脚本が、音楽が、そしていうまでもなく演出が、そのどれもがすばらしい、必見!とだけはいっておかねばならないし、また、何種類かの動物が物語の場面展開部分で、いささか唐突に登場するが、これがこの映画に神話的ともいっていい魅力を加えていることも付け足しておきたい、つまり、追いつめられた動物たち(野生/自然)による贈与(扶助)や返報(正義)の仕方を忘れた社会と人間たちへの復讐譚としてもおもしろくできていて、、、この映画はそんな、だめな人はだめで受け付けがたいだろう、生身の動物に素手で触れたときの無気味であると同時になつかしい「手ざわり」のする映画でもある。
『罪の手ざわり』の手ざわり
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