土佐備長炭の窯出し体験

090818.jpgこの16,17日、高知県室戸へ行き、土佐備長炭に関連した取材を行ってきました。
高知空港から地元の研究者・宮川敏彦さんのクルマに同乗させていただき、ウバメガシや炭焼き技術の伝搬の歴史などのお話を道々おききしながら、森に囲まれた炭焼き窯へとご案内いただきました。
到着したときはちょうど「窯出し」の最中で、本格的なものとしては初めて見るその光景と、文字通り窯の熱気に煽られて気分も一気に沸騰! 神々しく白熱した炭を窯から引き出し、灰(スバイ)をかぶせて消火する作業の見事さ・豪快さ・美しさに見とれました(とは言っても、炭の熱と舞い散る灰のために、われわれ取材班はほとんど窯に近づくことさえできないありさまだったのですが)。あの熱や窯の中の火の色、引き出されたときにたてる炭の渇いた音、におい、「白炭」のいわれである灰の粉塵が空間を満たす様、扇風機の風、職人さんたちの機敏で無駄のない動作などの「全体」は、やはりその場の体験でしか感得できない高揚した時間と空間の結晶でした。
窯出しの合間の短い昼食時間に、消火されできあがったばかりの炭で、途中で買ってきたさばき立てのウナギや肉、地元の野菜を焼き、カンビールを飲みながら食べました。おまけに、刈りたての新米でにぎってもらったおむすびまでいただき(そのどれもが美味かったこと!)、自然のなかでみなさんと歓談しながら食したことは、忘れられない記憶として焼き付いたままいつまでも心にのこりそうです。
談笑のなかで「ここ室戸は田舎で、なんもないけど…」と、おむすびのおカミさんがおっしゃっていましたが、東京から来たわれわれにとって、この森と空気と炭、近くを流れる川の透明な水、そして人々のあたたかいおもてなしは、なにもないどころか、いやそれゆえにこそ、なにものにもかえがたい豊潤なものでした。
仕事とはいえ、夏期休暇に旅に出られなかった私にとって唯一の、そしてサイコーに素敵な「夏」の体験となったことを、みなさんへの感謝の気持ちとともに記しておきたいと思います。
この室戸取材は、炭の産業と文化研究をライフワークとされている宮川さんへのインタビュー記事として、トヨタ財団の広報誌『JOINT』第2号(10月中旬の発行予定)に掲載される予定です。したがってここでは、記事の内容には立ち入りません。興味と関心のある方は、トヨタ財団のウェブ・サイトをご覧のうえ、講読をお申し込みください。


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“土佐備長炭の窯出し体験” への2件のフィードバック

  1. naohnaohのアバター
    naohnaoh

    ご存じのように私は高知県との縁が深く、さまざまな地域、産物、人と触れる機会がありました。
    高知県には大量生産の拠点もなく、大量消費の市場もありませんが、さまざまな手仕事の現場が残されています。
    白炭の原料となるウバメガシを代表とした黒潮に沿って生育する常緑広葉樹や豊かな柑橘類、手の入っていない四万十川や仁淀川などの豊かな産物を活用した素朴な仕事に魅力を感じています。
    高知でぜひ行っていただきたかったのは城下の日曜市です。
    東京では考えられない手仕事のモノが見られます。
    土佐刃物、ゆず酢、仏手柑酢、浦戸湾のエガニ(トゲノコギリガザミ)、田舎寿司など、考えているだけで興奮します。
    公共事業や県外からの投資に過度に依存しないで、自然の恵み、勤勉でオープンな県民性、濃密な人と人の繋がり、手仕事の産業基盤を活用した循環型経済を目指すべきではないかと「酔鯨」を呑みながら考えています。

  2. 石井のアバター
    石井

    たしかにnaohnaohさんのことが取材中も頭の片隅にありました。
    今回も駆け足出張だったため、あまりいろいろ見てまわる余裕はなかったのですが、事前にご相談し、情報をもう少し仕入れておくべきだったかもと、じゃっかん悔やまれます。
    しかし短い滞在時間でありながら、「……濃密な人と人の繋がり、手仕事の産業基盤を活用した循環型経済を目指すべきではないか」云々のくだりは私も共感を覚えます。
    地元の「生産者」の方々との親睦会では美味しい魚料理をいただきました。小さな民宿だったせいか「酔鯨」がなかったのは残念でしたが。
    いずれにせよ、わずかな時間の「体験」とはいえ、おかげでnaohnaohさんのコメントにはとてもリアリティを感じとることができます。また、お話をおききできる機会のあることを楽しみにしています。

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